目 次



Reach for the sky




 今回を最初として、倉木麻衣さんの曲の感想をシリーズで書いて行きたいと思います。(順序は不同)
 このシングルは、実はB面曲「What I feel」とセットで意味を考えると理解しやすいのではないかと思います。
 「What I feel」では、「君」と「僕」がecho backして際限なく心の交流をして行くという、倉木の詞に共通する特徴が非常に良く出ています。

 
If I give my love to you  君を知ってるさ それだけでいい!


  この出だしの時点で、実は既に「オカルト」的です。特定の現実の友達ないし恋人が、こういう台詞を吐くだろうかと考えると、通常ありえないわけです。
 何らかのspiritualな存在が語りかけていると解釈されます。実際、倉木さんは、ホラー・コメディー映画「キャスパー」を観て感動したらしく、愛犬の名前にも付けています。ただ、映画の主人公の方は男の子です。

 
It's so real What I feel


  詞の第2連以降、最後まで繰り返し何度も出てくるこのフレーズは、「僕」が感じ取れるのはとてもリアルだ、とも、「君」である女性の麻衣さん、あるいは無限大に対象を広げた聴取者各自が、目に見えないがはっきりと「僕」の存在を感じ取れる、と言っているとも両様に取れ、後者の場合、spiritualなguardian angel(守護霊)的存在を感じ取っている、という意味になり得ます。
 そして、
 僕の肩にもたれて (...) みんな忘れてしまおう (...) 泣いていたっていいよ (...) いつもそばについてる
 と最終連の最後に至るわけです。 曲調自体は軽快で明るくさわやかです。

 父親の事情から孤独な状況を余儀なくされることになった少女(ヒロイン)という、映画「キャスパー」の筋設定とパラレルに考え合わせると、詞の「僕」はキャスパーであり、守ってくれると共に未来の彼でもある男の子(男性)です。反射的に、「君」と呼ばれる女性はシンデレラになる少女です。

  以上を前提に考えると、 Reach for the sky

  
Reach for the golden ring  Reach for the sky


  におけるthe golden ringとは、太陽のコロナ、日輪を意味すると考えられます。この曲は、悲しい過去への訣別と希望に満ちた未来の狭間に立って、自らの手を伸ばして日輪(=希望)をつかみ取ろうとする強い決意と、新しい自分に生まれ変わるまさにその瞬間の光景を描いたものです。その喜びの表現が「アハハ」という笑い声として自然に発されることになったわけです。これは天使的な笑い声でもあります。
 まさに魂が天に昇っていく感じといいましょうか、前後際断して新たな自分に変わる、その生まれ変わりの曲と考えます。

  
どんな時も どんな時も ここにいて


  ここには、「キャスパー」の手助けで新生に成功した少女の感謝の念いが表現されています。

 蛇足ながら、「キャスパー」に相当するのが、倉木さんを支持する1人1人のファン、ということになりましょうか。

 (2004.3.17)





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Time after time 〜花舞う街で〜




 春三月、仙台北部の桜の木も新芽をつけて来ました。
 この曲を初めて聴いたのは、買ったCDでなく、昨年2月末に仕事で出張中だった青森八戸です。仙台に帰る日、ふと入ったビル内でBGMとして使われていました。ああ、ここにも倉木ファンがいるな、と嬉しく思いました。
 この曲は、「名探偵コナン 迷宮の十字路(クロスロード)」のテーマソングだったので、それとの関連性(服部平次と和葉の恋)で書かれた詞の部分もあるのですが(「君と出逢った奇跡」「今も忘れない約束」など)、詞の後半は特に意味の深まりが見られます。
 繰り返す季節......。
 日本の四季は、特にこの京都で感じられますとは、京都学生祭典 平安神宮ライブMCでの麻衣さんの言葉ですが、特定の季節が来るたびに思い出されるあの人、これはどなたもおありなのではないかと思います。
 似たモチーフの曲として、私は山下達郎の「風の回廊(コリドー)」を思い出すのですが、両者に共通するのは「儚さ」です。ただ、「風の回廊(コリドー)」では去ってしまった人の後姿は心の中に今も蘇るけれども過去のものとして振り返っているさわやかさがあるのに比べ、「Time after time 〜花舞う街で〜」はより日本人的でwetです。そして

  
出逢えたら もう約束はいらない (...) そばにいたい今度は きっと


と、将来に再会出来るという期待感で終わっています。
 これはまさに日本人的です。
 倉木さんは俳句にも興味があるようで、春の季語として、 薄氷(うすらい)  冴返る(さえかえる)=2月、  花  花御堂(はなみどう)=4月を詞中に盛り込んでいます。

  映画「名探偵コナン 迷宮の十字路(クロスロード)」は、仙台東宝で大勢の子連れのお母さん達と一緒に観ました。ジェネレーション・ギャップを感じました。(笑い)

 (2004.3.19)





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Stay by my side




 60〜70年代フォークソング調で、J-POPの正統を想起させる曲です。
 甘酸っぱい青春への回帰を聴き手にプレゼントしてくれます。

 ジャケットの麻衣さんのポーズもそんな感じを与えます。オリコン初登場1位になった最初の作品ですが、「倉木麻衣」の原点を確立した曲といえるかも知れないと思います。
 詞も詞中の英語詞も、初期の曲の中では最もシンプルでわかりやすいです。

 さて、倉木の唯一のパーソナル・ブック 「myself music」から、この曲制作当時の心境を綴った部分を引用させてもらうことにします。
 「2nd シングル『Stay by my side』と3rdシングル『Secret of my heart』。この2曲は、東京のスタジオでレコーディングをしたのですが、「どうやったら自分を知ってもらえるのだろう」「自分はどうなっていくのだろう」という気持ちが強く出ました。
 『Stay by my side』は、あまり限定したくないのですが、自分がデビューして、まわりの環境の変化に驚いたり、戸惑ったりしたことなどの心境を恋愛に置き換えて詞にしています。」
 ここで注目したいのが、わざわざ但し書きを付した太字部分です。すなわち、単純に言ってしまえば、当時、麻衣さんは1人でも多くの味方が欲しかったのでしょう。
 そして、その気持ちはデビュー当時に限定されるものでもなく、ある意味、無限に続いていくと考えられます。それは、麻衣さんの曲を初めて聴いて魅了され、ファンになりたいと思ったその人に対し、その都度伝わっていくはずの、麻衣さんのデビュー時の初々しいピュアな気持ちです。

今 始まる この想い 抱きしめながら 歩いてく

もう一人じゃない

Stay by my side You can 守ってくれるから

あなたのために (...) がんばってみるから


 説明はもう不要でしょう。

 この曲は、ライブでは毎回アレンジし直されています。定番曲としてのこだわりを感じます。

 (2004.3.23)





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Stand Up




 前もってお断りして置きたいのは、本稿に限ってはあまり真面目に受け取らないで欲しい、ということである。なぜなら、モチーフがアメリカン。理屈が通用しない面がある。
 作曲者徳永暁人の最初の曲であり、曲風がそれまでとは当然異なる。
 冒頭のDJの台詞、 Ah...We have had some technical problem.が麻衣本人に渡された時点で既に入っていたのかどうか、この点は検討の余地がある。
 入っていたとすれば、それに合わせて詞を付けた結果の作風であり(a)、後で悪ノリして挿入した(b)とすれば麻衣への一種のエールの意味がそこにあると考えられるからだ。
 冒頭の Come on DJ は、無論「こっちさ来、DJさん」ではなく「さ、早く」と曲をおねだりしているのである。
 私自身音楽の制作過程に携わった経験がないので推量であるが、おそらくメロディーそのものが先に渡されてそれに詞を付け、その後相互にコミュニケーションを取りながら編曲が進められて行くと思われるので、どちらかと言えば(b)が真相に近いと思われる。
 (a)の場合だと、「え、しょうもないわねぇ」というのが麻衣さんの曲を渡された時の最初の感想だったかも知れない。
 (b)の場合、「やるじゃん、麻衣」といいたくなるような適応性である。
 いずれにしても、ご本人はあの時はロックに挑戦してみました、と簡単に片付けている。
 Can't get no satisfaction この二重否定表現は、初期の曲に散見される。一種の意味を強める効果があるが、他面、日本語直訳調と指摘される向きもある。曲によってはその指摘も当たっているかも知れないが、ここは単なる強意表現と考えておく。
 あとは、「ほんにゃかふわふわ ほいほい」という感じでアイドリングしているrefrainが多い。アメリカンである。理屈ではない。
 最終連にようやく意味のまとまりが見られる。

さあ立ち上がろう (...) 君の前に広がる輝く道がある たとえ何かにつまづいたとしても Rolling Stone
  (...) 自分らしく歩けばいいよね


  この部分、前半の間投詞「Hey!」と共に、聴衆に気合を入れ扇動するアジ効果を狙っていると考えられる。女性指導者倉木麻衣の誕生か?いや、そうではなく、同年夏のライブの冒頭で、当選した幸運なaudienceがパフォーマンスを目撃したわけである。
 倉木麻衣の面白さが前面に出た曲である。後で説明させたら本人もよくわからない、そういう理屈を超越した「女長嶋茂雄」倉木麻衣の一面が窺える作品と言えるかも知れない。

 (2004.3.26)





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Feel fine!




 コンセプトは、60年代初頭のカリフォルニアのHOTROD「改造自動車」による海辺へのドライブです。トロピカルなイメージ。

 この曲は、SEA BREEZEのCMやPVを見ながら聴くと更に良い曲だったと思います。

 CDを買って聴いた第一印象は、それまでのR&Bテイストやブルース・ロックへの拘りはどこへやら、ジャケット写真の麻衣の仕草とも相俟って、ぷっつうんと飛んだ感じもありましたが、これから季節は夏に向かうからいいか、と諦めと許しの境地に次第に吸い込まれていきました。(笑い)

I can feel fine 焼けた肌 ぎゅっと熱く抱いて きっとそっと 目を閉じて 思い告げるから


 とにかく楽しい曲です。これ以上解説が難しいのですが、詞中「ウエンズデイ」は水曜日にやって来る伝説の大波だそうです。
 夏が好きな人は、シーズン・ソングとして聴いてみるのも良いのではないでしょうか。

(2004.4.4)


















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Secret of my heart




 麻衣さんのシングルCDで、「とっても女の子っぽいもの」がいくつかある。そのうちの代表的なものがこの Secret of my heart である。
 元来、異性の気持ちというものほど微妙でわかりずらいものはない。恋人と異性の友達の境界もあいまいである。いつも仲良しでいる友達同士は、友情が恋愛感情に変わることも多いが、いざ「愛」を口にするとなると、ふだんは喧嘩友達のようなのでお互いに気恥ずかしくて言えない。そういう「純」な心は誰にもあり、特に青春期の特徴だが、年齢は関係ない面がある。男女の仲はそういうものかも知れない。
 アニメ「名探偵コナン」の作中人物、毛利蘭は空手の都大会で優勝するような女子高生で、しかもエンジェルのようなマドンナ性を兼ね備えている。工藤新一とはクラスメートで仲良しだが、しょっちゅう喧嘩もし、お互いにストレートに告白したことがない。そのうち工藤は、「江戸川コナン」に変身し、表面上姿を消してしまう。エンディングで毛利蘭が Secret of my heart に合わせて歌い、微妙な乙女心を表現していた。

こんな 穏やかな時間(とき) もっと 繋がっていたい(...)


どんな作り物も 簡単にこわれてしまう 日が来る


だけどまだ いつまでも変わらない


Secret of my heart Our future is forever


 この曲では、「こころ」というもののしなやかさと、ある種の神秘性、それらが、恋愛という姿を通じて表現される。
 離れていても心は繋がっていたい、だから二人の未来は永遠よ! というこのセリフが、なよなよした軟弱な女性でなく強いエンジェルである毛利蘭、いや倉木麻衣の口から発されるとき、われわれ男達は、ある種の安堵感を覚えることを告白しよう。ファンにとっては、ずっと倉木麻衣を応援し続けることを許されたという、マドンナ直々のお許しの言葉と受け取ることも出来る。
 一般的に、女性の側から彼に告白するときに使える曲であろう。

(2004.4.19)






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Kiss




 洗練された urbane なR&Bテイストの曲。
 2003 SEA BREEZE CMソングです。

 ・・・と宣伝文句調に書いてみたものの、どうも実感にそぐわない。
 そこで、本音ベースで以下書いてみる。

 倉木さんがCM撮影で沖縄に行っている時に書いた曲である。
 自分的には、初期の NEVER GONNA GIVE YOU UP のようなR&Bテイスト、というよりもむしろ Michael Africk の美声のRAP入りの曲が好きなので(Cybersoundが好きなのかも知れない)、B面曲の You are not the only one と共にカラオケの十八番の1つにしたい位であるが(実際は Loving You・・・君との時間 etc.が人前でよく歌う曲である)、プール・サイドで黒系のキャップをかぶって踊りながら歌う麻衣のPVイメージが強いので、やや明るく軽く儚い気もする。自分で歌うよりは聴くのが好きな曲である。麻衣さん自身のRAPが実はとても良い。

 やや脱線するが、kissというアメリカの有名なロックグループがあり、中年のおじさんが喜びそうな相当過激なネーミングのアルバムを今度出すが、リード・ボーカルの某シンガーが、来日時に舌の長さを自慢にし、女優の釈由美子にちょっかいを出そうとした(勿論TV番組の演出だが)。大和撫子に何をする、と言いたいところだが、真っ赤になって恥ずかしがりながらも You're kidding ! と上手く逃げていた。

 曲の良さもさることながら、CDジャケット写真の麻衣さんが優雅でとても良い。そういう意味でも大好きな曲である。
 全体にいい、ということで、今回は歌詞を省略させて頂く。

(2004.4.29)











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風のららら




 とにかく「爽やか」な曲である。悶々とした気分に陥ったときなど、サッとこの曲をかけると100%爽快になること請け合いである。
 「名探偵コナン」のTV on airバージョンが先に完成し、1番しかなかったが明るくリズミカルなボーカルである。
 その後制作したオリジナル・バージョンでは、(サビの部分をメロディとの和音の関係で言葉の最後をどこまで伸ばして歌うか、について、本人が納得するまで試行錯誤があったようだが)2番まであり、麻衣自身のボーカルが最も生きた Cybersound による編曲が最終的に採用された。

 「ららら」の意味に就いて、ご本人は続く想いの表現ですと言っている。以下、やや仔細に分析してみる。
 まず、「風のるるる」や「風のれれれ」でなく、なぜ、ア行の「ららら」か、という点については、音階的には高まる気持ちを表現しやすい。シ、ドへと至る前のクライマックスである。
 そして、ファルセット・ヴォイスが出来ているかどうかの分界が「ラ」音であり、それが出来ないと、ラ音で声がひっくり返りオクターブが変わってしまうことになる。この辺がプロ歌手の1つの不可欠な要件である。
 また、ア行であるという点は、気持ちを明るく前面に出す効果を持っている。Reach for the sky における「アハハと笑ってみようよ」と好一対の表現である。

 次に、「風」であるが、季節感的には、「風薫る5月の風」で爽やかさを表現してはいるが、人それぞれの心境によってはもの悲しくも、楽しくも受け取れるのが「風」である。situationが海辺なので、「潮風」と「銀色の波」と言うフレーズが、ロマンチックに時間を超えて往来する「こころ」を「寄せて返す波音(=君への想い)」に仮託して、「君」への気持ちが高揚しハイな想いになった女性の乙女心をよく表現している。
 なお、この詞には「僕」が登場せず、「君」という2人称表現で恋愛感情を表現しているため、ヒロインの彼に対する想いを紡ぐ歌と解釈する方がより適切であろう。いずれにしても、「君」というユニセックス表現を用いることで、性別を問わず全てのリスナーの琴線を爪弾く曲になっている。歌手であると同時に「詩人」である倉木独特の手法である。
 「ららら」という言葉には、沈む自分のこころを惹き立てようとするときに自然と口ずさみたくなる、そういう要素もある。勿論、楽しくてたまらないときにも自然に出そうな表現であるが、意識的に気持ちを惹き立てようとするときに発声することが多いはずである。

もう離さない 君に決めたよ(...)


あきらめかけていた たった一つのことが(...)


大切な人と 今なら言える 風のららら…


見つめる笑顔に 何故か急に抱きしめたくなる


風に揺れて もう一度今


熱い想いをのせて 君に決めたよ


 Simple is the best. 何度聴いても飽きの来ない作品である。
 時間の流れが止まる、そういう体験を聴取者はするであろう。

(2004.5.15)






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always




 この曲は、倉木麻衣さんの「愛」に関する思想・考え方が凝縮されたものとして、エポック・メイキングな作品だと言えると思います。
 私は、この曲名を思い浮かべる度に、よく「愛と持続」というテーマに思いを馳せるのです。
 打ち上げ花火のように大きな愛を与えるということは、確かに貴重なことです。それができる人は、幸福な人でしょう。しかし、自分自身の状況、生活、etcで余裕がなく、与えるものが何もないと考えがちな人でも、「いや待てよ、自分にできる親切や笑顔はまだあるのではないのか、闇夜のロウソクの1本になることは自分にもできるのではないか」と考えを転換した時に、することは無数にあります。
 私自身は、キリスト教的な自己犠牲的愛をあまり好きではありません。しかし、結果的に自他を生かせる愛ならば、多少の犠牲を払っても実践すべきではないかと思います。

 少し脱線しますが、昔、日本酒かウィスキーのCMで女優の大原麗子さんが、「少し愛して。長ーく愛 して」と言っていました。愛が持続するための秘訣でしょう。(^^)

 詞の1,2連は、若い女性向けのメッセージだそうです。
 3,4連は「夢を捨てないで」という麻衣さんの実体験に基づくメッセージです。夢と希望を失わずに努力して行く中に、いつの間にか成長した自分を見出すことができる。
 今回のツアーのサブタイトルである、Grow, Step by Step はこれを意味するのでしょう。

 後半の英詩の意味は、自分自身を輝かせて行くときに、人生は美となる場合があり、そのために愛を惜しまない。
 ライブでは「Stand Up」と共に、聴衆はこの曲で扇動される気分になるのですが、「私の皆への愛を感じ取って?感じ取れたら、膨らんだその愛で他の人を潤してください」というのが麻衣さんの真意だと思います。

(2004.6.7)










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NEVER GONNA GIVE YOU UP




 初期のR&Bテイストを代表する曲である。
 テーマは、一目ぼれした相手と一生恋人でいたい、という純愛もので、麻衣さん自身はどう思っているか別にして、とてもロマンチックな曲であるのは間違いない。
 Rapの相手として、Cybersound 所属の万年青年、Michael Africk さんが選ばれた(というか自ら買って出た感じが強い)。美男美女のコンビでお似合いだったため、ご本人たちの気持ちとは無関係に、一時、国際結婚するのでは、という噂が流れたこともあった。
 麻衣さんの方も、大和撫子なんだけど、外国の人たちにも受ける国際性というか、一種の器用さを持っているため、PVも見ていて違和感がない。この辺も、帰国子女ではない麻衣さんの不思議な才能である。小さい頃から好きな洋画を観ていたために自然と身についたのだろうと思われる。
 話題は変わるが、この曲は麻衣さんの「地声」が聴ける数少ない曲である。本来、詞の雰囲気から一番それがありそうだったカヴァー曲「イミテイション・ゴールド」においても、「地声」は出てはいない。麻衣さん標準のファルセット・ヴォイスによる歌い込みである。原曲の山口百恵さんへのrespectが、かえってそれで表現されているのかも知れない。
 麻衣さんの「地声」はかすれている。その分、ややセクシーと言えるかも知れない。(Rapでの"to Mai K."の箇所)
 一般に、女の子は、立場上、大人の女性になる成長過程で自然と「裏声」による発声が習慣付けられる。ごく親しい人との間では「あたし」と言ったり方言を丸出しにしたり「地声」で話したりするのだが、男にとってはむしろ「胸キュン」ものである(笑)。閑話休題、麻衣さんの「地声」が聴ける曲は、シングル「Stay by my side」所収のB面曲「Just Like You Smile Baby」(こちらはむしろ「麻衣さんの低音」と称すべきかも知れない)と、2002年 HOT ROD BEACH PARTY 所収の PLEASE LET ME WONDERでのエンディング近くの囁き「I love you」である。

 個人的にはカラオケの十八番にしたい曲である。ただし、TPOを考慮して歌わないとH扱いされかねないので、要注意である。

(2004.6.9)











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Can't forget your love




 テーマは、結構の大きいグローバルな愛である。愛の転生輪廻を想起させる。
 過去・現在・未来と邂逅を繰り返しつつ、その都度新たに展開する愛が、メリー・ゴー・ラウンドのように回転して、どこまでも無限へと繋がって行く姿を聴き手に想像させる曲である。
 それは、男女の愛に限られるものではなく、無限の愛の連鎖=愛の循環が人類をも救う、という究極の理想を表した詩だと思える。

 ・単なるロマンティシズムで終わるのではなく、 your love という具体的な個別の愛の行為・実践が大事であるということ。
 ・そして相手の愛に対する感謝(Can't forget your love)が欠くことが出来ないこと。
 この2点を印象的に表現していると思う。

 即ち、仮に図式化すれば、

 (現在与えられているものへの)感謝
         ↓              }無限にループ = 「愛はいつまでも続く」
    (報恩としての)他に与える愛

 ということになる。

 したがって、ちょっと見には一種貪欲(?)と思える「愛を止めないで」というテーゼが正当化され、麻衣さんの別の曲「愛をもっと」が、”Can't forget your love”をちょうど裏側から表現した曲になっていると考えられる。
 麻衣さんの曲の中から類曲をもう1つ捜すとすると、”always”になるであろう。
 また、シングルのカップリング曲である”PERFECT CRIME”は、”Can't forget your love”のもう1つの側面を表した曲になっている。

言葉交わすたびに NOがYESになる


通り過ぎてく冷たい風 温かくなるよ

 好きなフレーズである。

 麻衣さんがハートで歌っていることが、特に強く感じられる曲の1つだと思う。
 PVで歌っているときの表情・振り付けの手の仕草がとても魅力的で、個人的には「超大好き」な曲である。


※ The world is go round and round について

 第1連の最後に出て来る句である。
 文法的には go → going が正しいはずである。しかし、
The earth goes (a)round the sun. (地球は太陽の周りを回る)という表現と比べると、真理を述べるのに現在進行形は通常使わず、現在形が本来であることがわかる。よって、当該表現は進行形を想定したのでなく、現在形である。
 「世界はぐるぐる回る」という意味を表現するのに、麻衣さんの頭にはメリーゴーラウンドのイメージがあったと想像する。merry-go-round である。
 The world is a merry-go-round. + The world goes round and round. この両者の意味を掛けて、go round and round を名詞句として用い、The world is go round and round (世界は回転木馬/ぐるぐる回る)という表現になったと見る。

(2004.8.17)


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PERFECT CRIME




 某サスペンスドラマ(*)のテーマ・ソングとして作られた曲です。
 そのドラマのストーリーを踏まえた詩になっていますが、登場人物の「病んだ」部分を優しく諌め、出口に導いて救ってあげようとする意思が感じられて前向きです。
 過去にこだわることが、さらなる罪を犯すことへとつながって行くというドラマの構成から、

心の犯罪を (...) 閉ざされた扉 壊して 悲しむのは 終わりにしよう (...) 抜け出せない(...) 暗闇なんてないよ ねぇ 怖がらないで I can stop the loneliness


 孤独は自分の意思ひとつで止めることが出来る。その具体的方法が「優しさ」ということになります。

些細なプライドを(...) 脱ぎ捨てたら きっと 優しくなれるはずだから We can stop the loneliness


 優しさ=愛が鍵になるという点で、一見全く異なる曲と思える”Can't forget your love”とモチーフが共通することがわかります。”PERFECT CRIME”(完全犯罪)は、メロディーが現代的でクールな危うい感じの曲であるのにも拘らず、詩に救いとしての抜け道がちゃんと用意され、麻衣さんの情熱的な歌唱が加わることにより、化学変化を生じ、かえってとても「倉木麻衣」的作品になっています。


* 「生きるための情熱としての殺人」

(2004.8.25)







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Like a star in the night




 秋の定番曲である。
 この曲に限っては、筆者の個人的思い入れが強いため、以下やや主観が混じることを許されたい。

 まず、シングルCDの写真についてだが、”Time after time 〜花舞う街で〜”、”Kiss”と共に、特に好きなものの1つである。
 この曲を聴いたり、シンクロして歌うとき、どんな状況にあっても本来の自分に戻れる、そう感じる。
 というのも、おそらくはモチーフが「お〜星様キーラキラ」だからであろう。自分の本来の棲家が夜空の星かも知れない、という感覚は、童心を失って久しい大人には、それでも懐かしい響きが微かに残っているものである。そういう意味で、甚だロマンチックな曲であると同時に、ノスタルジーをそそられる曲でもある。

 SFドラマ「ダーク・エンジェル」のテーマソングとして作られた曲であるが、遺伝子組み換えにより生まれた孤独な超人戦士であるヒロインの明日をも知れない運命を象徴するものはやはり夜空の星がぴったりといえよう。私的には、TVでは物語の第2部から日本語吹き替え版のプロデューサーが変わってしまった関係からか、テーマソングが変わってしまったのが残念だった。
 この曲の場合特に、全体の詩の意味を通しで把握しないと、部分的引用では香りが失せる恐れがあり、歌詞の引用はしない。
 ラブソングとしても十分秀逸である。その意味は、夜、一人でこの曲を聴き、詩を吟じてみればどなたにもおわかりになることと思う。

 さびの LaLa..LaLa..La..like a star in the night は、”Reach for the sky”の「アハハ」に端を発するお得意のア行音であり、「風のららら」ならぬ「星のららら」とでも呼べそうな要素がこの曲にはある。共通してミーディアム・テンポの曲である”Reach for the sky”、”Like a star in the night”、「風のららら」と順に並べると、それぞれ独自の物語世界が展開するオムニバス(否、傑作短編集)になっている。そういう楽しみ方もあるかも知れない。

(2004.9.2)








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Simply Wonderful




 シングルには、〜Club Edit〜と〜Radio Edit〜が収録されている。前者は、テンポがやや速い。それに序奏からドラムスのビート数が多く、聴き手は煽られている印象を持つ。それに対し、後者は落ち着いた聴かせる感じの曲である。
 甲乙を付け難い出来だったためか、両者がA面曲として同時収録された。その際、麻衣さんがまだ10代の頃だった点にも注目したい。〜Club Edit〜は、なるほどティーン・エイジャーには受けそうなバージョンである。
 その後のアルバム”Perfect Crime”には、同様にブルース・ロック系のB面曲”think about”が収録されたのに比し、本曲はなぜか収録されなかった。一説には、当時、シングルのどちらのバージョンを選択すべきか本人が迷った、と言われる。”delicious way”と比べ、曲数も13曲と増加しているため、両バージョンの同時収録は無論無理だったことも原因していたのであろう。
 もっとも、PVはすっきりと〜Radio Edit〜になっている。クラブで歌うシーンなので〜Club Edit〜かとも思われようが、そうではない。
 結局、本曲”Simply Wonderful”が初収録されたアルバムは、初のベストアルバムである”Wish You The Best”ということになった。”Perfect Crime”から起算しても2年半、シングルの発売からは実に3年3ヶ月後にようやく陽の目を見たことになる。

 その理由の1つには、プロモーション上、本曲が革新的で理解されにくい面があるとの懸念があったのかも知れない。
 詞の前半では、失恋しかかった時の暗く落ち込んだ心情が、未だ恋々とした未練を伴いながら連綿と続く。

 疑えば 疑うほどに 深みにはまってく


 言葉さえも 素通りしていく 名も無い日が続く


 こんなことじゃ 心 失くしていく


 雨が激しく舞う やみそうにもない つらくて君が見えない


(...)


 お互いに いつの頃から 違うもの見てた?


 言い訳さえ ゆらゆら映る なぐさめにもならない


 こんなことじゃ 心 失くしていく


 まるで 飛べない鳥 青い空遠くて君が見えない



 相手を信じられないのは心を失くすこと、そう麻衣さんは解説している。(『myself music』)
 そこで、

 誰よりも信じて 信じていなくちゃ 奇蹟はこない そう Simply Wonderful



 その信じるという行為には、しかし、無論努力が伴う。

 I believe in you I close my eyes and see


 believe in は、信仰する、強く信じるという意味である。普通は神を信じる意に使用する。それ位強く瞑想し、祈るシーンが目に浮かぶようである。

 What we got to learn Just to be... be myself


 「私たちが学んだこと それは、自分らしくあること」

 I believe in blue I chose my key of life


 「私は蒼ざめて信じる 私の人生の鍵を選んだことを」なお、実際の歌唱では、"choose"と現在形で歌われている。現在形の場合、自分の意志が強調されることとなろう。

 駆け抜ける時間 夕焼けの空に包まれて 今 歩き出す


 輝く 明日へ Don't You See Just Simply Wonderful



 相手に対する思いを修正し、積極思考に切り替えた後は、ただひたすらその方向に歩いて行くわけである。

(...)


 I can see the magic in your eyes I can feel the sunlight from your smile


 Trusting each other is just simply wonderful


 I can see the magic in your eyes I can feel the sunlight from your smile


 So beautiful, It's simply wonderful


 そのようにしてイメージを変えた相手の目は魔法のようで、太陽のように微笑んでいる。
 信じあうことはとにかく素晴らしい。また、美しくもある。とにかく素晴らしい。

 そういう詩だが、Simply Wonderful とは、素晴らしいと感じることに別の価値観の入り込む余地がない。批評の余地なく、良いものは良い、ということである。したがって、そういう方向性を選択すべき(当為)だということでもある。

 究極の明るさを内包した、楽天的な詩である。この曲を聴いて倉木麻衣さんのファンになった所以である。

(2004.9.21)

※What we got to burn Just to be... be myself について

 この作品の最も過激でスパイシーな部分である。
 「燃やさなければならなかったもの それは自分自身」
 旧我の否定、偽我の否定、反省、悔い改めである。
 自分の殻を脱ぎ捨て、自己都合を超えた心眼で見なければ、本当のことは見えて来ない。
 お互いに自分の都合、言い訳、エゴを焼き滅ぼしたとき、相手の真実の姿が見えたわけである。
 厳しい詩である。しかし、教育的でもある。麻衣さんの指導性の一端が垣間見られる歌詞とここでは表現しておく。

(2004.11.18)





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Make my day




 この曲は、一種の「事件」だった。前奏の過激な出だしは、それだけで今までと大きく違う倉木麻衣を連想させる。「あの」麻衣ちゃんの vocal だから安心して聴けるが、曲調は斬新である。
 この曲の背景には、前々回シングル「Feel fine !」(徳永暁人)の初動数字24万枚が前回シングル「Like a star in the night」(大野愛果)で7万4千枚と落ち込んだ点から、再び作曲・編曲に徳永暁人の起用となったと思われる事情がある。
 結果的に初動6万枚で過去最低、ファンの間でも賛否両論の最も多い作品である。
 しかし、多くのモチーフから成り立っている興味ある曲でもある。

 麻衣ちゃんに「つっぱり」は似合うか

 ジャケット写真を見て、私はカッコイイと思った。それまでの作品のジャケットを見て「綺麗だ」「可愛らしい」とは思っても、カッコイイと感じたことは特になかったような気がしていた。もっとも、album ”Perfect Crime”は、作品としてクールでカッコイイし、同様に歌詞カード写真にも”cute and cool”でカッコイイものがある。
 山口百恵の「プレイバックPart2」、中森明菜の「少女A」はいずれも背伸びしたティーン・エイジのつっぱりの要素を持っている。(背伸びが悪いという意味ではない)
 このCDは、麻衣さんが満20歳になった直後に作った作品で、「大人になった」決意の表明曲でもある。(それは後に詳論する)16歳でデビューし、それまでに14枚のシングル、4枚のアルバム(USA盤を含む)を送り出していた彼女だが、曲上は、「反抗期」がなかった。事実、それだけの時間が、多忙の彼女にはなかったのであろう。この点、宇多田ヒカルは13歳でデビューした関係から、初期の曲では反抗期の特徴を表現する余裕はあったろう。
 それでは、麻衣さんの他の多くの曲は人格的に完成され過ぎていると見るべきだろうか?確かに、ややセクシーで危ない曲(例えば”Baby I Like”、オリジナル曲では”All Night”)はあっても、悲恋の曲が少ないのは倉木麻衣の特徴である。ただ、それは意識の上で前向きの曲であり、悲恋をも明るくさわやかに(ただし女性特有の未練はあるのだが、相手をひたすら信じて待ってあげようとする信仰にも似た健気さを伴った)とらえた曲であるという意味においてである。これらは、既に成熟した大人の視点による曲だと言い切って差し支えない。
 したがって、Make my dayのジャケット写真は「つっぱり」ではなく大人になった若い女性のかっこ良さが表現されているのである。

 Make my day の意味

 アメリカ映画「ダーティー・ハリー4」の1シーンで、”Go ahead, make my day !”というのがある。(今日1日)いい日にしてくれよ、という意味である。

 さびの部分、

切ないこの気持ちを止めて(・・・)
どうか神様お願い もっと私を変えて

「いい日にしてよ」という意味合いはここに切実に表れるが、女性らしく、対象は人間でなく神になっている。
 しかし、day には、1日という意味だけでなく、「時代」という意味もある。そこで、(I'll) make my day 「私は自分の時代を作る」だから、ファンの皆さん応援お願いします。という風に、意志が加わっていると見ないと、20歳の決意としてはかえって不自然である。倉木麻衣がこれからJ-POPSにおいて自分の時代を作って行きます、という決意表明をしたのである。
 さらに、なんと麻衣さんは Make my day をこの作品自体を意味するものとしても詞中に表現している。それは次の部分に明らかである。

Oh! Everybody sing & Make my day

 ここは、「誰もが歌う、そしていい日にしてよ」では意味が通らず、気持ちは「Everybody sings "Make my day"」(誰もが"Make my day"を歌う)で、本曲がヒットして欲しいということである。メロディーに合わせた結果、&が入ったと考えられる。
 このフレーズは、直前のシングル”Like a star in the night”の初動売上数字が”Feel fine!”に比べ落ち込んだことと無関係ではない。

 曲末尾「ちくざ」の秘密

 曲の最後に、麻衣さんは決めの言葉で「ちくざ」と歌っている。最初、この意味がわからなかったのだが、"Tick that !"であることが後に判明した。「(時計が時を刻むように)それを心に刻め」ということである。それとは、直接的には「未来の行方 探しにいこう 勝利の女神 微笑む日まで」を受けているが、自分の心に言い聞かせる誓いとしての全体の詩を指していると解釈したほうがより適切であろう。つまり、共に時間を表す day, tick という類語を使って詩全体としての首尾照応を実現している。

 さらに、倉木麻衣の歌詞の共通する特徴である、日本語・英語が互い違いに出てくる歌詞とパラレルな表現法として、歌詞のメイン部とさび部が互い違いに出ており、さび部は歌詞カード上も小文字で表現されているのが、「ちょっと気の利いた」この作品の特徴である。

 ついでに当サイト「Make Mai Day」との関係

 色々な意味で「過渡期」に作られたこの作品である。シングルCDとしては、それまでの1,260円から1,000円に値下げしたのもこの作品が最初である。
 Make my day には「負けないで!」という意味も込めてあると本人が説明していた。
 日英含めた言語表現を短時間のうちにアクロバット的に操る彼女特有の才能があって初めて作れた作品であろう。
 そういう意味で、本曲には倉木麻衣の特徴が凝縮されているし、正にファンとして彼女を応援しがいのあるフレーズである。
 ちなみに、Fairy tale ツアー時に販売されたパンフ「Make Mai Day」と共通するネーミングであるが、麻衣さん、GIZAスタッフの方々、ファンの皆さん共、考えることは同じという1つの好例で、当サイトも末永く続けて行く所存です。今後もご支援をお願い申し上げます。

(2004.12.3)


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Love, Day After Tomorrow




 1999年、日本でのデビュー曲である。
 ボストン Cybersound でのレコーディングを終え、多くのことを新たに学んだという麻衣さんは、東京のスタジオでこの曲の残りの半分を収録したが、ボストンにいる臨場感を維持出来たそうだ。

 この詩全体を通じての特徴は、唐突なフレーズを多用することによる意外性であろう。
 例えば、
You are the first thing on my mind

における”first thing”。通常なら first one 等で、人を表すのに thing を用いる点。クールである。
 また、
曖昧に飾った言葉は要らない

断定的に切り捨てる語調が、詩全体を引き締める効果を生んでいる。「曖昧」「飾った」というネガティブな語を「要らない」と否定する二重否定表現は論理性を与え、厳密で知的印象を与える効果がある。
 さらに、
「ゴメンネ」の一言

メールで送った文字じゃ「返事はこないね」

真剣な恋愛に伴う、真剣な喧嘩である。あるいは恋愛でなく、同じ目的を持った女性の親友同士の高めあう愛なのかも知れないが。その辺は両方の可能性がある。

 これらは、曲調のクールさに合わせた歌詞であり、世上よくある甘美なラブソングでない点が、当時17歳の手になるものとしては一味違っていた。

 事実上の処女作であることから、やや鬼面人を驚かす表現が多いことが、かえって表現の生硬さによる初々しさを醸すのに一役買っていると言えるかも知れない。

 事実、この曲が大ヒットしたのは、都会的でクールな詩であると同時に新人歌手倉木麻衣としてのフレッシュネスを持っていたからだと思う。しかし、通常それだけなら、パッとヒットチャートの上位に出て、間もなくパッと消える。この曲の特殊性は、新人歌手としては空前のロング・ランとなったところにあり、オリコン18位からスタートして、次第に上昇し、3ヶ月後2位を達成した点に現れていた。

 同じ夢を持つ親友、または恋人同士が今日、喧嘩してハート・ブレイクしたけれど、あさってには仲直りしたい。今度君に逢うとき、きちんと伝えられる自分でいたい。しかも等身大に言葉を紡いで行く表現法は、次作以降にずっと引き継がれることになる。
 人間としては、決して器用ではない。その不器用な人間が、シャイな性格を引きずりながら、文才で癒しの曲、励ましの曲を作り続ける。それは倉木麻衣が自分で選んだ道であり、それを見守るファンがいる。
 麻衣は、きっと永遠に My heart is waiting for your love. で待ち続けているのだと思う。

(2004.12.7)


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Winter Bells




 「冬の定番ソング」にするために作られた曲だそうです。
 ファミリーで楽しめる癒しソングになっていると思います。
 序奏のclapsに始まるノリ・テンポ共に良い曲なので、クリスマスやお正月のイベントの際のBGMとしてもぴったりです。

 
幸せを数える ベルの音が響くよ

 遠距離恋愛の曲でもあるので、久しぶりに逢ったときの「心ときめく」情景です。

   
冬が過ぎ 新しい季節が来る 君を連れて

 ここは、やや強引ともいえる転換ですが、そうあったらいいな、という願望がもちろん含まれています。
冬の次には例外なく春が来る。だからこの恋も実るよ。ロジカルに説得されている気もします。

 平和な曲です。願いがきっと叶えられます。繰り返して聴きましょう。

(2005.1.23)





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冷たい海




 麻衣さんのライブでこの曲が演奏されることは少ない傾向にあります。しかし、倉木麻衣には欠かせない曲であることは確かです。
 社会性の強い重いテーマは印象的で、比較的初期の段階で既に、倉木麻衣が単なる流行歌手の枠に止まる存在でないことを証明した作品だと言えると思います。
 「冷たい海」に出てくる情景は、砂漠とか凍った海という、生命の乏しい環境です。
 17歳の少年犯罪が多発したことがモチーフになったと言っていますが、作品のテーマ自体はそれを超えて遥かに普遍的でグローバルなものです。
 私自身は、少年犯罪に対しては、背景となる社会事情というものは否定し切れないものの、やはり当人自身の問題が非常にウエイトを占めていると思います。したがって、それに憐憫をかけるのは少し違うと思われ、麻衣さんの視点とは若干異なります。
 しかし、
All the kids are fighting to live on this earth

に見られる平等の愛は、十分尊重されるに値するし、人種による差別もあってはならないと思います。
 本曲のテーマには、政治性は勿論ないのですが、実質的にコスモポリタン(世界市民)の思想が盛られていると見て良いでしょう。その意味で、世界的に災害の多発している昨今、海外援助の意義を深く考える契機を提供してくれる曲でもあると思います。

(2005.2.23)





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Start in my life




 「名探偵コナン」のエンディングテーマになりました。
 テーマは、歌手デビュー後の高校生時代を間もなく卒業するという麻衣さん自身の状況にかなり沿ったものです。

 一言で、「夢」そして「希望」です。
 自分自身の変身する可能性を信じようじゃありませんか、ということです。

ねぇ もう一人の 自分に逢えるから

気持ち一つで 変われるんだ

ほら ここから始めよう


 ここはかなり説得力があります。このフレーズに励まされる人は数多いでしょう。私自身もそうでした。
 発想の転換で、自分には違った才能も埋まっているのでは、と考えてみることは無駄でなく、人生を豊かなものにするためにも必要なことでしょう。「always」の「それだけが自分じゃない 風向きが変わった今 飛び立とう」と共通します。

 この部分、本業がうまく行っている人に対し、それを捨てて別の道を行けと言っているのでないことは明らかです。しかし、人間関係のしがらみ、その他で本当に閉塞状況にあるような場合、勇気を与えてくれるフレーズです。若い世代のみならず、熟年・中年にも等しく麻衣さんの曲は有益だという良い例です。

(2005.2.23)





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明日へ架ける橋




 倉木さんは、宇多田さんとは個性が異なる。未だに「宇多田」と比較しているのかとのそしりもあるやも知れないが、さしあたってお付き合い願いたい。
 2003年1月、宇多田は名曲「COLORS」を発表した。あえて名曲と呼んでおく。オーケストラの伴奏で乙女心を色に譬え、その移ろいを歌い切った点で、一見さもない詞のように見えて非凡な作品である。
 実は宇多田ヒカルは、それから1年3ヶ月間沈黙を守る。
 その間、倉木は「COLORS」をもちろん聴いていたはずである。「明日へ架ける橋」は、倉木ファンにとって幸か不幸か、2004年唯一の新曲だった。しかし、それは「COLORS」を念頭に置いた曲でもあり、「COLORS」に比肩し得る出来であったと考える。但し、前者の「大人の恋」に比べ、純で可愛らしい部分が持ち味であろう。
 「明日へ架ける橋」は、オーケストラをバックに、明日へのビジョン・希望を声を限りに歌う曲である。実際、2004年のライブツアー Wish You The Best〜Grow, Step by Step〜では、あたかもレコーディング・ルームにいる時と同然、否、それ以上の声量で22曲を歌い上げたが、中でも一際目立ったのがこの「明日へ架ける橋」だった。
 大晦日の紅白では、一転してアコースティック・バージョンを披露したが、しっとりと聴かせるパフォーマンスは、NHKホールとTVの前の聴衆に概ね好評だった。
 今持てるもの、実力、全て出し切っての明日への希望であり、「虹色」は蜃気楼ではない。きょう努力するから明日のビジョンが生まれる。努力する辛さは、君がいることで軽減される。
 この曲も「一日一生」をテーマにしていると思われる。しかし他面、「一日の苦労は一日にて足れり」とも言う。
 毎日を輝かせて行く生き方をしましょう!

(2005.5.21)





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Love,needing




 洗練度が高く、上品で素晴らしい曲である。

 イントロのサビは、
You know, I don't know what's happening to me, but only one thing... so love,needing.(1)
もともとこの様だったらしい。
 しかし、実際のレコーディングでは、
You know, I know what happened to me, but only one thing... so love,needing.(2)
このように収録されている。
 イントロの長さに合わせて変更されたと考えられるが、結果、(2)は意味が不明瞭になっている。
 ただ、歌詞全体の意味のつながりという点では、文法的に問題を含むものの、(2)のほうが良く、結果オーライとなったと言えるのではないか。
 (1)は、歌入れに入る前の段階での手書き歌詞にあったものである。HMV渋谷店でのパネル展示会に陳列されていた手書き歌詞コピーの内容である。
 (1)においては、恋のアバンチュールにあるわが身の状況がわかっていないという意味になり、(2)ではそれが既往のこととして現在も愛が進行中になっている。
 ただ、(2)では but と逆接になる理由が存在せず、 and が適当であろう。

 次に Love,needing の意味であるが、「愛が必要」ということである。しかも進行中ということなので Love is being needed. が本来文法的に正しいと思って良かろう。
 しかしそれだと曲名として冗長になるし、切ない思いを強調するのに Love,needing というタイトルが使用されたようである。
 さらに、繰り返し現れる no no no..but but について。「駄目よ。。でもいいわ(愛してる)」と通俗的な女性表現になっているが、この曲中のパンチになっている。
 特に「ばっばっ」と一刀両断にする語感を持つ but but は、この曲をフォークソングと規定するとそのジャンルに収まりきらない効果をもたらし、むしろR&B寄りのブルースと評して間違いなかろう。単なるアップ・テンポのJ-POPではない。
 ギターの伴奏・パーカッション・ベースと麻衣自身のバックコーラスとのハーモニーが絶妙で、キュートな声質が生かされている。特に最後のため息まじりの oh You が締めくくりとして見事に全体の曲想を物語っている手法は、小説のようでもある。
 一旦始まった恋が無限ループして永遠に続いて行くことを予感させる作りの曲であり、クラシック宮廷音楽の優美さと文学性をベースに持った芸術性の高い作品だと思う。
 聴かせる名曲である。

(2006.1.26)





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